大雪火山前カルデラ期の岩石の化学組成

Chemical compositions of the rocks from pre-caldera stage
in the Taisetsu volcano, central Hokkaido, Japan.

野口昌宏*・和田恵治

Masahiro Noguchi* and Keiji Wada

北海道教育大学旭川校地学教室 

Earth Science Laboratory, Hokkaido University of Education at Asahikawa

Hokumon-cho 9, Asahikawa 070, Japan

* 現在:日鉄鉱コンサルタント株式会社

* present address: Nittetu Mining Consultants

Abstract

The volcanic history of Taisetsu volcano, central Hokkaido, is classified into four stages, pre-caldera stages of歛nd, caldera-stage of。(about 30000 years ago), and post-caldera stage「. Stage-is divided into the early period characterized by the formation of plural stratovolcanoes and the later period by 11 lava dome formation. We have newly determined the major chemical compositions of the volcanic rocks (42 lavas and 59 mafic inclusions) from pre-caldera stages. The lavas range from 56 to 67 wt.% SiO2 and felsic andesite to dacite of 61-64 wt.% SiO2 are dominant, whereas the mafic inclusions have compositional peak of 53-55 wt.% SiO2 showing the basaltic andesite compositions. Most of the lavas and mafic inclusions from pre-caldera stages belong to medium-K series of Gill (1981) and their SiO2-normalized K2O content (K60) is 1.95 wt.%, which is higher than those of Me-akan and Mashu volcanoes on the volcanic front of the Kurile arc. SiO2 variation diagrams, especially of TiO2, Na2O, and P2O5, does not show compositional trend of one straight line from mafic inclusions to lavas, which indicate that the chemical trend from the mafic inclusions to the lavas cannot be produced by both fractional crystallization of magmas and simple magma mixing between the most mafic and felsic magmas. The compositional change of lavas from early period to later period of stage-was possibly caused by the more effective change to the local extensional stress field of the crust.

1.はじめに

 北海道中央部には北東b南西に配列した大雪b十勝火山列があり,大雪火山はその北東部に位置する.大雪火山は多数の火山体から構成される.中心部には御鉢平カルデラ(直径2H)があり,それを取り囲むように黒岳や凌雲岳などの溶岩ドーム,旭岳や安足間岳などの成層火山体が存在する.大雪火山の噴出物は,東西12H南北8Hの範囲におよび,山麓には火砕流台地が拡がる(勝井ほか、1979:目次、1987など).

 本火山の最近の地質学的研究は,勝井ほか(1979),目次(1987),和田・野口(1995),斎藤(1996),野口(1997)などにより行われ,火山発達史の概要が明らかにされた.また,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の調査によって大雪火山噴出物のK-Ar年代も報告されている(NEDO,1990).しかし,大雪火山の詳細な岩石学的研究はまだなされていないのが現状である.

 最近,和田(1995ab)は大雪火山の黒岳溶岩に含まれる斜長石の組織や化学組成からマグマ混合を論じた.さらに,未公表ではあるが,斎藤(1996)や野口(1997)は大雪山の岩石について多数個の試料を化学分析している.

 大雪火山前カルデラ期の岩石101個(溶岩42個と苦鉄質包有物59個)について今回新しく主成分化学分析を行った(野口,1997).これらの分析結果から,ここでは大雪火山前カルデラ期における岩石の化学組成の一般的な特徴,溶岩と苦鉄質包有物の化学組成の違い,活動期毎の溶岩の化学組成の違いについて報告する.

2.地質概要

  大雪山は旭岳や御鉢平カルデラなど多数の火山体から構成され,その活動史はステージ氓ゥらステージ「まで大きく4分される(第1表)(和田・野口,1995).このうちステージ。と「はおよそ3万年前からの活動期を指し,ステージ。は大規模な火砕流噴出によるお鉢平カルデラの形成,ステージ「は旭岳などの成層火山・ミクラ沢溶岩の噴出によって特徴づけられる新期火山体形成期を示す.本論文の対象であるステージ氓ニは前カルデラ期に相当する(第1表).

 ステージ氓ヘおよそ50万年前までの活動によるもので,大雪山の基部を構成し,高根ヶ原や銀泉台・天幕山など平坦な溶岩地形をつくっている場合が多い.

 ステージはおよそ20万年前を境に前期と後期に分けられる.

 前期には溶岩を主体とする安足間岳や永山岳などの成層火山がいくつか形成された.安足間岳の山頂は溶結降下スコリア層になっている.御鉢平カルデラの基部に露出する溶岩もこの時期に形成されたと考えられる.

 後期には凌雲岳や黒岳など火山地形が明瞭な11個の溶岩ドームがこの時期に生じた.その後のステージ「に形成された熊ヶ岳と後旭岳を合わせた溶岩ドーム群の分布をみると,御鉢平カルデラを取り巻いておよそ径5kmの環状配列を示している.

 大雪山前カルデラ期の溶岩や溶岩ドームはデイサイトや安山岩からなる.斑晶は斜長石・オージャイト・斜方輝石・鉄チタン酸化物としばしばホルンブレンド・カンラン石を含み,まれに石英・黒雲母を含むことがある.ステージの岩石は特徴的に多数の苦鉄質包有物を含む(最大20%)(和田,1995a).

3.岩石の化学組成

3-1.分析方法

 分析は北海道大学理学部にあるフィリップス社のPW1404型蛍光X線分析装置を用い,Tsuchiya et al.(1989)を一部改変した方法により行った.第2-1表に溶岩42個,第2-2表に苦鉄質包有物59個の全岩化学分析値を示す.分析値は全鉄をFe2O3に換算し無水100%に再計算したものを示した.なお,末尾(付録)に分析試料の位置図を掲載した.

3-2.SiO2量

 大雪火山前カルデラ期の岩石はSiO2が50%から67%まで広い範囲にわたる.溶岩はSiO2量が56%から67%の安山岩組成からデイサイト組成の範囲にあり,その中で61-64%の珪長質安山岩〜デイサイトが卓越する(第1図).苦鉄質包有物のSiO2量は50-60%の範囲で,SiO253-55%にピークをもつ正規分布をしており,多くが玄武岩質安山岩である(第1図).このように,溶岩とそれに含有される苦鉄質包有物とではSiO2量の分布が明瞭に異なっている.

 第2図にステージ氈E(前期-1と後期-2)における3時期毎のSiO2量の頻度パターンを示した.ステージ氓ヘSiO260-62%の狭い範囲の分布を示す.我々の分析データが少ないが,斎藤(1996)の未公表データも検討すると同じようなSiO2量の分布を示すことからステージ氓フ時期にはSiO260%くらいの安山岩が多く噴出したと思われる.ステージの前期では,SiO256-67%の広い組成範囲のマグマが活動したことを示す.ステージの後期ではSiO261-64%の珪長質安山岩〜デイサイトに分布ピークが存在する.このように各ステージでSiO2量の分布パターンが異なっており,多様なマグマ活動があったことがうかがえる.

3-3.FeO*/MgO-SiO2 図

 第3図にFeO*/MgO-SiO2 図を示す.溶岩のほとんどはMiyashiro(1974)の分類に従うとカルクアルカリ系列の領域内に入る.苦鉄質包有物では組成範囲が広くカルクアルカリ系列からソレアイト系列まで分類される.ソレアイト系列内にあるものはFeO*/MgO比が増加するソレアイトマグマの分化トレンドを示している.

3-4.K2O量

 第4図AにK2O-SiO2図を示す.大雪火山前カルデラ期の岩石のほとんどが,Gill(1981)が分類したmedium-Kの系列に入る.またSiO2量が多い岩石の一部はhigh-K系列の領域内に入り,全体的にK2O量に富む.

 苦鉄質包有物のデータがやや分散するが,前カルデラ期の岩石の組成データ全体は,SiO2に対してK2Oはほぼ直線的に単調増加する.溶岩と苦鉄質包有物で変化トレンドが多少異なるかもしれないが,前カルデラ期の岩石を通じてほぼ一本の直線近似が可能である.傾きはGill(1981)の分類境界線を交差する.

 比較のため,千島弧火山フロント沿いにある摩周火山(勝井ほか,1986)と雌阿寒火山(和田・池上,1998)の岩石の化学組成を示した (第4図B).大雪山前カルデラ期の岩石のK60(組成変化直線でSiO260%でのK2O量)は1.95であり,摩周(K60=0.38)や雌阿寒岳(K60=1.46)よりも高い.これは,大雪山が他の2火山より内陸部にあり千島弧プレート境界から遠いことによる一般的な島弧のK2O量水平変化に合致している(Katsui, 1961:中川ほか,1995).

3-5.ハーカー図

 第5図に,横軸にSiO2を,縦軸に各酸化物をとったハーカー図を示す.苦鉄質包有物でデータの分散がやや大きい.これは粗粒な苦鉄質包有物の場合にその化学組成が必ずしも真の液組成を表しているとは限らないことと,そもそも苦鉄質包有物の起源が1つではないことに起因している可能性もある.苦鉄質包有物は組織の異なる2種類以上のタイプに分けられるので(和田・野口,1995),組織と化学組成の対応を今後検討する必要がある.

 SiO2の増加とともに単調減少している酸化物はTiO2,Al2O3,Fe2O3*,MnO,MgO,CaOである(第5図).TiO2はSiO260%付近から傾きがやや急になる.これに反して単調増加している酸化物はNa2OとK2O(第2図参照)である.ただしNa2Oは,苦鉄質包有物では傾きの異なる2種の変化トレンドがあるように見える.そして溶岩と連続的な変化を示さず,SiO258%付近に傾きが下がる屈曲点がある.P2O5もSiO258%付近に大きな屈曲点があり,ここからSiO2の増加とともに単調減少する.

 TiO2・Na2O・P2O5で見られるように,苦鉄質包有物と溶岩では組成が連続的に変化せず一つの直線で近似できない.これは,最も苦鉄質なマグマを示す苦鉄質包有物端成分と最も珪長質なマグマを示す溶岩端成分との間で1つの単純なマグマ混合線をつくっていないことを示している.

 SiO258-60%付近に屈曲点があることは,もし苦鉄質包有物から溶岩への組成変化が分別結晶作用によるのなら,分別結晶の種類がこの屈曲点で変わったことを意味し,アパタイト・Naに富む斜長石・イルメナイトが分別に加わったことが考えられる.しかし,実際にはSiO258-60%の溶岩には斑晶としてアパタイトは存在せずイルメナイトも微量しか含まれない.したがって,これらの鉱物が組成変化に大きく関与したとは考えられず,苦鉄質包有物から溶岩への組成変化は分別結晶作用によるものではなく別の成因を考えねばならない.

 大雪山の黒岳溶岩はマグマ混合を受けており(和田,1995ab),ステージ氓フ溶岩を除いて,他の溶岩も斑晶組み合わせや岩石組織が黒岳溶岩に類似しているので同様にマグマ混合を得て噴出した可能性が高い.もしそうなら岩石の化学組成は端成分マグマのマグマ混合線をつくる.上述したように1本のマグマ混合線では前カルデラ期のマグマの組成変化は説明できないから,複数の端成分を設定しなければならない.また苦鉄質包有物が混合に関与したマグマであったかどうかも問題となる.これらの考察には鉱物の組成データなどが必要であり,別の機会にあらためて論じたい.

3-6.溶岩の化学組成の時間変化

 各活動期毎の溶岩の組成をMgO-K2O図とAl2O3-SiO2図・Na2O-SiO2図に示す(第6図).ステージ氓フ溶岩はデータ数が少ないが,ステージの前期(-1)溶岩の組成トレンドと重なる.ところがステージの後期(-2)と前期の溶岩では組成変化トレンドのレベルが明瞭に異なっている.すなわち-2のトレンドの方が-1よりもMgO-K2Oレベルが高く,Al2O3-SiO2レベルとNa2O-SiO2レベルが低くなっている.このように溶岩の組成トレンドのレベルの違いと,前述したようにSiO2量の分布パターンが異なっていることは,ステージの前期から後期にかけてマグマの化学組成がマグマ溜まり内で時間とともに分化したとは考えにくく,新たなマグマ溜まりが作られるなどのマグマ供給系が変化した可能性が高いことを示している. 

 大雪山は多数の火山体からなり,火道も広い範囲で多数つくられてきた.すなわち大雪山は,高橋(1994)による火道不安定型の火山に分類され,隆起山脈内に生じた局所的伸張応力場に支配されていたことが考えられる.ステージの後期にはいって大雪山では複数の成層火山を形成する噴火様式から火道の異なる多数の溶岩ドーム形成へと噴火様式が変化した.このことは山体の成長とともに地殻応力場がより引張力が卓越する場に変化して,地殻浅所に割れ目が新しく形成されやすくなったことを示しているのかもしれない.その結果,シート状のマグマ溜まり(高橋,1994)から化学組成の異なる新たなマグマが環状の割れ目に沿って噴出し溶岩ドーム群を形成したことが考えられる.

4.まとめ

(1)大雪山前カルデラ期の岩石について溶岩42個,苦鉄質包有物59個の主成分化学分析を行った.

(2)溶岩はSiO2量が56%から67%におよび61-64%の珪長質安山岩〜デイサイトが卓越するが,苦鉄質包有物はSiO253-55%にピークをもち多くが玄武岩質安山岩である.

(3)大雪山前カルデラ期の岩石のK60は1.95であり,摩周(K60=0.38)や雌阿寒岳(K60=1.46)よりも高い.

(4)溶岩のほとんどはMiyashiro(1974)の分類に従うとカルクアルカリ系列の領域内に入る.

(5)TiO2・Na2O・P2O5で見られるように,苦鉄質包有物と溶岩では組成が連続的に変化せず一つの直線で近似できない.これは,苦鉄質包有物から溶岩への組成変化が分別結晶作用によるものではないこと,両端成分との間で1つの単純なマグマ混合線をつくっていないことを示している.

(6)ステージの前期と後期で溶岩の組成トレンドのレベルの違いとSiO2量の分布パターンの違いが認められる.地殻応力場がより引張力が卓越する場に変化し,地殻浅所に割れ目が新しく形成された結果,新たなマグマが環状の割れ目に沿って噴出した可能性がある.