大雪山の火山発達史 

氈|1.はじめに

 大雪山で山登りを楽しんでおられる時,「この山はどのようにしてできたの?」「この山 とあの山ではどちらが新しいのですか?」「この石はどういうものなの?」 こんな質問を 子供たちから受けたことはないでしょうか.また雄大な景色を眺めながらこのような疑問を もったことはないでしょうか.

 高山という環境のなかで樹木や花が生きているさまを見て,わたしたちは植物の方に目を うつしてしまいがちです.でもまわりの地形や岩石にも好奇心をむけ,どのようにしてこう いった山々ができたのか,山の中でちょっとそんなことを考えてみれば,だんだんと自分の ことにも考えが及んでくるはずです.都会から離れて,自然の中に身をおいて自分の目でみ れば,「生きている」大雪山を感じることができるでしょう.こういった経験を子供たちに もぜひ体験させてあげたいものです.

氈|2.大雪山の概要

 天気のよい日は旭川市から大雪の山々がはっきりと見えます.右端に見えるのが旭岳(標 高2290m)です.

大雪山はいくつもの火山が集合してできています.そのため火山体は円錐形ではなく多くのピークをもった複雑な火山地形をしています.マグマの地表への出口(火口)がいっぱいあったことを示しています.

 大雪山は100万年の歴史をもち,3つの発達段階に分けられます.我々は,その段階を それぞれステージ1・ステージ2・ステージ3と呼んでいます.

ステージ1(主に溶岩の活動による火山群の形成):


 ステージ1はおよそ100万年前から5万年前の活動時期を示し,およそ20万年前を境に 前期と後期に分けられます.この時期に形成された火山は,永山岳や愛別岳を含む安足間岳 火山群,白雲岳や赤岳の火山群,凌雲岳や黒岳などの溶岩ドーム群などです.永山岳の西に ある沼ノ平溶岩の噴出年代は,カリウム−アルゴン年代測定によると30万年前を示しま す.溶岩ドーム群では,凌雲岳(2125m)が明瞭なドームの形態をしています.粘性の高 い安山岩マグマが噴出したため,流動性に乏しく,火口の上にそのまま盛り上がって固まり ました.

ステージ2(火砕流噴出によるお鉢平カルデラの形成):

 ステージ2は,3万年前の大規模な爆発的噴火によりお鉢平カルデラが生じた時期を示し ます.お鉢平カルデラは直径が約2kmで,やや楕円形の窪んだ地形をしています.この時の 火砕流の噴出規模は,層厚や噴出源にできた火口の大きさから考えると,1991年のピナツ ボ火山の火砕流噴火と同程度のものだったと思われます.

ステージ3(旭岳などの新期火山群の形成):

 ステージ3はおよそ2万年前から現在までの時期を指し,旭岳や熊ケ岳・後旭岳の火山体 およびミクラ沢溶岩が形成されました.旭岳では,多数の噴気孔が見られ,新しい火山であ ることがわかります.

.大雪山はどのようにできたのか?

−1.お鉢平カルデラと火砕流

石狩川を埋めた火砕流:

 上空から下を見ると,石狩川上流に沿って国道と層雲峡温泉街が見えます.温泉街の対岸 は急斜面で,その頂部は平な板を載せたような地形になっています.急斜面の部分は白亜紀 の泥岩からなる古い地層です.その上の平な板状の部分は,3万年前におこった大規模な噴 火による火砕流堆積物です.大規模な火砕流はお鉢平から噴出して黒岳の斜面を流れてかつ ての石狩川上流に達したのです.その結果,石狩川上流は火砕流堆積物でほぼ埋められてし まいました.

 上川町菊水にもこの火砕流の露出があるので,噴出源から約30kmも流走したことになり ます.火砕流堆積物は堆積後に浸食作用を受けて削られ,そこが現在の石狩川になったわけ です.

火砕流とは?:

 火砕流堆積物の断面は石狩川上流の国道沿いの急崖や天人峡など忠別川沿いで見られま す.火砕流堆積物は,材木を規則正しく並べたような柱状節理が発達した部分(溶結部)と その下位の灰色の無層理の部分(非溶結部)からなります.厚さは最大でおよそ250mに及 びます.

 火砕流堆積物で柱状節理が発達するには,火砕流が高温でかつ停止した時に十分な厚みが あることが必要です.その場合には,発泡した軽石が自重により流動変形する溶結作用をお こします.そして堆積面と平行に上下から火砕流が冷却して規則的な割れ目の柱状節理を作 るのです.

 溶結した岩石では,軽石やスコリアが圧縮され,レンズ状になっているのがわかります. 軽石の方がスコリアより押し潰されています.やや角張った岩片は火砕流が取り込んだ岩石 片です.これらのレンズ状岩片や石質岩片の周囲にある灰色に見える細粒部分は結晶質の火 山灰です.

お鉢平カルデラ:

 お鉢平は円形をした径2kmの小さなカルデラです.石狩川上流や忠別川上流に流れた火砕 流の噴出源にあたります.爆発的噴火によって火口が拡大したものでしょう.カルデラ底に は湖底堆積物があるため,かつてお鉢平は水を湛えていたことがわかります.お鉢平カルデ ラの東側は,赤石川の浸食によってカルデラ縁が開かれています.

 中岳のお鉢平カルデラ内壁では,カルデラ形成時に噴出した火山砕屑物が積み重なってい るのが観察できます.黄土色の筋になって見える層はベースサージ堆積物です.これはマグ マ水蒸気爆発による噴出物で,細かく破砕された火山砂〜火山灰が火口から砂嵐のように広 がって堆積するものです.その上部の黒っぽい噴出物は,下位が降下スコリア層,最上位が 層雲峡や天人峡に流れた大規模な火砕流堆積物で,ここではそれが薄く残っています.

 黒岳からお鉢平へ向かう登山道は,雲の平と呼ばれる平坦な地形面を通りますが,この雲 の平は,お鉢平から噴出した大規模な火砕流堆積物でできています.ここでは火砕流は溶結 していません.

 黒岳石室小屋の近くにも大函や層雲峡で見られるのと同じ火砕流堆積物が露出していま す.ここでも堆積物の層厚が厚くないので溶結していません.

−2.新しい火山 旭岳

旭岳の溶岩:

 旭岳は大雪山の中で最も新しい成層火山です.旭岳西方の山腹や山麓には多数の溶岩が分 布しています.その中で旭岳から約15kmも流走した溶岩があります.東川町志比内を過 ぎ,勇駒別旭岳温泉へ向かう道路から,ちょうど基盤の山体の窪んだところ(かつての谷) に平坦面をもつ溶岩の末端崖が明瞭にみられます.  裾合平は旭岳から流出した溶岩が分布しており,空中写真で観察すると,溶岩じわが多数 みられます.溶岩の内部を観察すると,板状節理が発達しているのと同時に,それらが墨流 し模様のように複雑な流理構造をしているのが特徴です.

旭岳地獄谷:

 ロープウェー姿見駅から旭岳を間近に見ると,深い谷が刻まれて,火山体が大きくえぐれ ているのがわかります.空中から見ると,山頂から西方に細長く開いた馬蹄形の火口になっ ています.この地獄谷火口は,数100年前の水蒸気爆発により旭岳の山体が地滑りのよう に崩壊してできたと考えられています.崩壊した跡には旭岳の火山体内部が露出し,火山噴 出物が何層にも累重しているのが明瞭に見られます.

 旭岳の地獄谷には多くの噴気孔があり,そこから活発に火山ガスが出ています.地獄谷の 火山ガスは温度が百数十度でその98%が水蒸気です.噴気孔の周りには,ガスに含まれて いる二酸化イオウが昇華して黄色いイオウの結晶ができています.

旭岳の降下スコリア層:

 旭岳山頂に至る登山道では,旭岳から噴出した破片状の火山砕屑物が散在しています.旭 岳地獄谷火口壁上部にこのような降下スコリア層が露出しています.これらの降下スコリア 層は10数枚堆積しています.玄武岩に似た組成のマグマが火口から噴き上がる中小規模の 噴火が繰り返し行われたことを示します.マグマの噴出率が高いと,次々に高温のスコリア が降り積もって溶結します.金庫岩と呼ばれている岩石は,このような溶結した降下スコリ ア層のことです.


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