要旨  

 大雪火山は北海道中央部、旭川市の東方から南北に連なる大雪-十勝火山列に位置する第四紀火山群である。その活動は約100万年前から始まり、その後安山岩質な溶岩流及びデイサイト質な溶岩流・溶岩ドームを形成し、3万年前の御鉢平カルデラを形成した火砕流を伴う大噴火を経て、今なお噴気活動を続ける旭岳の形成に至っている。
 本研究の対象である前カルデラ期とは、約100万年前の高根ヶ原溶岩類以降で、3万年前の御鉢平カルデラ形成以前の年代を指し、大きく2つのステージに分けることができる。すなわち、現在の大雪火山群のほぼ全域にわたって下部に分布する安山岩質な溶岩流(ステージ1)と、その上部に御鉢平カルデラをとりまくように分布する安山岩〜デイサイト質な溶岩流・溶岩ドーム群(ステージ2)である。

 この前カルデラ期の噴出物は、母岩中の斑晶鉱物のバイモーダルな化学組成分布や、非平衡な斑晶組み合わせ、組成変化図における直線的なトレンド、また多量でしかも数十B(最大50B)の苦鉄質包有物の存在など、マグマ混合の証拠が多数認められる。
 溶岩中の斜長石斑晶は、鏡下における形態から、自形〜半自形でコアが無色又は濃褐色のガラス包有物を持つ結晶(H-type)と、半自形〜他形でコアが無色又は淡褐色のガラス包有物を持つ大型の結晶(L-type)とに区別できる。また、それぞれのコアのAn組成(100×Ca/(Ca+Na))、FeO,MgO量は共に異なる組成を示す。H-typeはAn=70~90にピークをもつが、L-typeはAn=50付近がピークである。FeO,MgO量はH-typeが0.3〜0.9wt.%であるのに対し、 L-typeは0.2〜0.4wt.%に集中している。

 その他にも母岩中には、厚い汚濁帯を持つ斜長石斑晶や逆累帯構造を持つ斜長石・単斜輝石斑晶、融食を受けた石英、斜長石、輝石斑晶など、マグマ混合を示唆する形態が見られる。
 全岩化学組成変化図においては、ステージ1の安山岩質溶岩類及びステージ2の溶岩流・溶岩ドームを含めた組成トレンドは、ほぼ直線的である。ただし、珪長質端成分は1つであるのに対し、苦鉄質端成分は複数の組成に分布し、単純な2端成分系のマグマ混合ではないことが示される。これらは1火山体(溶岩ドーム)の中で異なる場合や、それぞれの火山体、つまり火口の位置(噴出中心の位置)による違いのこともある。このことから火山体を形成するのに関与した苦鉄質マグマは、複数存在していたと思われる。

 大雪火山での特徴的な観察事実として、多数の火口の存在、多数で大きなサイズの苦鉄質包有物(Inclution)の存在がある。苦鉄質包有物とは、噴出した溶岩中(母岩(Host))に認められる包有物のことであり、その形態は球状もしくは楕円状の産状を示す。また、鏡下での組織や化学組成が母岩とは異なる。苦鉄質包有物は鏡下での石基組織の違いから大きく3つに分類できる。すなわち、石基の斜長石が自形で針状の形態を示し、やや大きいサイズ(微斑晶サイズ(長径0.5-短径0.1@):MP size)であるタイプ(F-type )と、石基の斜長石が半自形でやや大きいサイズ(MP size)とさらに小さい自形〜半自形の微粒サイズ(石基結晶サイズ(長径0.15-短径0.03@):GC size)の2段階に区別できるタイプ(M-type)と、やや大きめの結晶サイズではあるがその形態が柱状〜融食状を呈するタイプ(C-type)である。それぞれのタイプは鉱物化学組成でも明瞭に区別できる。F-typeのMPサイズはM-typeのMPサイズと同じAn=75を示す。これに対しM-typeのGCサイズはAn=60〜70に分布する。C-typeはF、M-typeに比べ斜長石のAn組成は幅広いレンジ(An=40〜70)に分布し、FeO,MgO量は低い濃度を示す。

 今回の研究では、その火山地形が明瞭なことから年代的に新しいと思われる黒岳溶岩ドームについてより詳細に考察を進め、苦鉄質包有物の分類と鉱物組成、全岩化学組成変化図から次のことが言える。すなわち、F-type苦鉄質包有物は全岩組成でSiO2の低い組成に集中し、苦鉄質な端成分のマグマに近い状態で、また石基の斜長石の形態から急冷により固結した。M-typeはF-typeと母岩との混合線上に位置することから、 F-typeと同じ苦鉄質マグマではあるが、組織から2段階の石基の結晶化により生成された。F-type、M-type苦鉄質包有物で見られるサイズの斜長石は、一苦鉄質端成分のメルトに近い状態で結晶化したものであり、また母岩中のFeO,MgO量の高いH-type斜長石斑晶、微斑晶と、その化学組成から同じものであるといえる。これに対し、C-type苦鉄質包有物は不均質な組織、異なる化学組成、分散した全岩組成分布をすることから、F,M-type苦鉄質包有物とは異なるマグマ、混合様式で固結した。しかしながら、同一の溶岩中に存在することから、少なくとも噴火直前では同一の混合場に共存していたはずである。これらの事実は、大雪火山の地下に複数のマグマが存在していたことを意味し、また単純な珪長質端成分と苦鉄質端成分の2端成分マグマ混合ではないことを示唆している。