オーストラリア・タスマニア島北西部における第三紀玄武岩の岩石学的研究 
Petrological study of the Tertiary basalts from the northwest Tasmania Island,Australia
教科教育専攻 理科教育専修(地学) 鈴木 右享                                         
1.はじめに
 タスマニア島はオーストラリア南東に位置し,新第三紀に活動した(およそ4000万年〜1000万年前)玄武岩(basalt)の溶岩台地がみられ,今回研究対象とした北西部にそのうち約60%が集中する.タスマニア島に分布する新第三紀玄武岩は日本列島のようなプレート沈み込み帯の活動場でできたものではなく,ハワイ諸島のようなプレート内部の活動場でできた,いわゆるホットスポット型(マントル深部にある高温の熱源から上昇するプリュームによってその真上に火山活動が起こるところ)のマグマ活動に由来するものである. 調査は1997年2月から3月にかけてタスマニア島北西部の海岸沿いで行い玄武岩を約100個採取した.その後,これらの岩石を薄片にし偏光顕微鏡による観察,電子プローブ装置(EPMA)を使って玄武岩に含まれる鉱物の化学分析,北大で蛍光X線装置(XRF)による岩石の化学分析を行った.                                            

2. 本研究の目的 
(1)タスマニア島北西部の玄武岩類の岩石学的特徴を明らかにし,(2)カンラン石やスピネル鉱物の化学組成および全岩化学組成から,これらの玄武岩を導いた初生マグマの化学組成を見積もり,どういうマントルに由来したかその起源を明らかにし,(3)タスマニア島北西部におけるマグマ発生から噴出までの岩石学的モデルを構築することである.

3.調査地域および玄武岩の産状
 タスマニア島北西部に分布する溶岩台地の海岸沿いは露出状態が良く岩石も新鮮である.詳しく調査した場所はStanley・Nut地域,Boat Harbour地域,Table Cape地域で,Somerset,Burnie,Penguin,Leith,Devonportでも調査を行った.北西部の海岸沿いでは海底噴火の産状を示す枕状溶岩やシート状溶岩もみられ,溶岩の表面構造がきわめて良く保存されている.これら噴出岩体だけではなく,マグマが地下で固結した貫入岩体( NutとTable Cape)もみられる.また,玄武岩はしばしばゼノリス(捕獲岩)を含み,とくにTable CapeやSomerset・Penguinの玄武岩にそれらが多く含まれる.

4.顕微鏡観察
 岩石薄片を顕微鏡下で観察したところ,噴出岩は斑状組織(5-15vol.%)と斑晶鉱物に乏しい無斑晶状組織があり,Pc-タイプ(斑状組織で石基が粗粒なタイプ),Pf-タイプ(斑状組織で石基が細粒なタイプ),Ac-タイプ(無斑晶状で石基が粗粒なタイプ)に分けられる.噴出岩の斑晶にはカンラン石が必ず含まれ,単斜輝石も見られ,微斑晶として時に斜長石やスピネル鉱物が含まれる場合がある.カンラン石の斑晶サイズは長径0.2mm〜2.0 mmである.また,累帯構造が発達しスピネル包有物を含む.応力で変形したキンクバンド組織を示すカンラン石も見られる.

5.岩石の化学組成
岩石87個を粉砕しガラスビードを作り,XRFで岩石の化学分析(主要元素と微量元素の測定)を行った.ノルム鉱物組成(岩石の化学組成を定められた計算方法に従って標準鉱物の重量百分率に換算して表したもの)に基づいたJohnson and Duggan(1989)による分類法で岩石名を特定した.その結果,ne-hawaiiteが最も多く噴出し,basanite,hawaiite,transitional basaltなどのalkali basaltが噴出し,また,ol-tholeiitic basaltとqz-tholeiitic basaltなどのtholeiitic basaltがLeith・ Burnie ・Devonport地域の一部で噴出したことがわかる.化学組成の関係図からこれら玄武岩は1つの結晶分化トレンドを作らず, 大きく4つの組成グループに分かれる. すなわちStanley・Nut地域とne-hawaiiteを噴出した Boat Harbour地域とCentral 地域(Boat Harbourのneの含まない岩石・Table Cape・Somerset・Penguin・Leith・ Devonport) とEast地域(Burnie・Penguin・Leith・Devonport)に少なくても4つの初生マグマが存在し,しかもCentral 地域ではさらにいくつかの親マグマが存在する可能性が高い.Stanley・Nutとne-hawaiiteを噴出した Boat Harbour地域の岩石はTiO2やP2O5やRb・Ce・Ga・La・Sc・Srなどに富んでいる.これは,マントルの部分融解の程度が少なかったか,もともとマントルカンラン岩の化学組成が違っていたかである.
タスマニア島で噴出した玄武岩は,Nakamura et al.(1986), Nakata and Kamada (1988), Nagao(1992)の論文で指摘されているように,ホットスポット型マントルに由来する玄武岩は液相にイオン半径の大きい微量元素が濃集する.また,この玄武岩は,海嶺玄武岩類やTi・Nbなどの元素に乏しい島弧玄武岩類とは明らかに組成が異なる.本研究ではNbが通常の10倍もこの玄武岩に含まれていたことから,タスマニア島で噴出した玄武岩はホットスポット型マントルに由来するといえる.

6. ゼノリスとスピネルについて
 ゼノリス(岩石薄片3枚)中のカンラン石斑晶コアのFo値はFo89〜Fo91,NiO値0.32〜0.41と範囲が狭くマントルと平衡であり,他に斜方輝石と単斜輝石が含まれ,これらの組成がカンラン石と平衡であることから,このカンラン岩はスピネルレールゾライトでありマントル上部にあった岩石である.
 また,ゼノリスに含まれるスピネルCr#値は0.8〜1.0と低く,ほとんど部分融解されていないマントルから由来していることを示す.一方,玄武岩のカンラン石斑晶中のスピネルCr#値は25〜60と高く,これらのゼノリスから由来したものではない.

7.カンラン石の化学組成
 代表的な岩石薄片26枚のカンラン石斑晶コアの組成を100個以上 EPMAで分析した.カンラン石はFeとMgがイオン置換する固溶体であり,そのFe/Mg比は主にマグマの化学組成によって変化するため,その値(Fo値=100Mg/(Mg+Fe))が重要な指標になる.

7-1.Stanley玄武岩のカンラン石斑晶
 Stannley 地域ではFo80にピークをもつカンラン石斑晶は自形〜半自形が多く大きさも0.5mm平均で共通した特徴をもつ.これらは同時に成長した可能性が高く,Fo80のカンラン石と平衡なやや分化したマグマから晶出したものである.一方,Foが90にピークをもつものは,マントル・カンラン石の組成に一致し,これらの多くは他形で結晶が大きく,しかもキンクバンド組織が一部に見られることやCaO量が0.1wt.%以下でありゼノリス中のカンラン石と組織・組成が一致する. これらがStanley玄武岩マグマから晶出した斑晶ではなく,玄武岩マグマが上昇中にマントルカンラン岩を捕獲したゼノクリストであるといえる.

7-2.Somerset玄武岩のカンラン石斑晶
 Fo値が87〜75の範囲で1つのピークをもつユニモーダルな組成分布を示す試料の中でSomersetカンラン石は最もFo値が高い(Fo90〜80).さらに自形〜半自形が多くコアのCaO量は0.18wt.%を越えることからこれらが比較的未分化な玄武岩マグマから晶出した斑晶であることを示す.また Fo90のカンラン石斑晶はNiO量が0.38wt.%に達しTakahashi(1986)の論文で指摘されているようにmantle olivine array(マントルカンラン石の組成分布列)にほぼ入り初生マグマから晶出したことを示す.この初生カンラン石の組成とカンラン石の分別結晶作用のトレンドから判断すると,タスマニア島のマントルは,ハワイのようなFe/Mg比に富むマントルよりはFe/Mg比に乏しくやや涸渇した(マグマ成分が抜けた)マントルに近いものであったことが考えられる.ただし,Boat Harbour地域の初生カンラン石はFe/Mg比が高く,異なるマントルカンラン岩に由来した可能性がある.                           

8. 玄武岩の初生マグマ組成 
タスマニア島北西部で噴出した玄武岩の初生マグマ組成は,Somersetの場合,カンラン石斑晶は最大がFo89のとき,全岩組成そのものがほぼprimary magma組成を示す.したがって,Somersetの 初生マグマは,SiO2=45.9wt.%,FeO*=11.1wt.%,MgO=11.5wt.% である.Hauri (1996)のSiO2-FeO*図より,マントルカンラン岩の部分溶融液の曲線付近にプロットされ,30kbよりやや高圧側(深さ約120kmに相当)でできたと思われる.また,Penguinでは,カンラン石斑晶の組成トレンドを描くと,mantle olivine arrayにぶつかるのは,およそFo88,NiO=0.38wt
.%である.実際に存在するカンラン石斑晶はFo85以下がほとんどなので,この岩石はprimary magmaからやや分化した組成を示しているが,真のマグマの化学組成は,全岩組成からゼノクリストの組成を差し引いたものである.ゆえに,SiO2=46.3wt.%,FeO*=12.3wt.%,MgO=10.0wt.%となり,FeO*-MgO図より,primary magmaの組成はFeO*=12.0wt.%,MgO=12.0wt.%,SiO2=46.0wt.% となる.また, Hauri(1996)のSiO2-FeO*図より,マントルカンラン岩の部分溶解液の曲線近く,ちょうどハワイ諸島のprimary magmaの領域内にプロットされ,35kb付近(深さ約140kmに相当)でできたことが推測できる.