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水中の微生物の観察(基本事項と実験内容)HEADLINE

水中の微生物(原生生物)
 原生生物(Protist)とは,ホイタッカーの五界説でいえば,植物界,動物界,菌界,原生生物界,原核生物界のうち,原生生物界に属する生物で,真核生物(Eukaryote:核やミトコンドリアなどのオルガネラを持つ)のうち,単細胞の生物,あるいは多細胞でも比較的単純な構造を持つ生物の総称である。原生生物には,光合成を行い独立栄養を行うケイソウやミカヅキモのような単細胞藻類と,コンブやカサノリのような多細胞藻類,ムラサキホコリカビやタマホコリカビのような粘菌や細胞性粘菌,そしてゾウリムシやアメーバのような従属栄養の原生動物が含まれる。しかし,近年,分子レベルの研究で,原核生物にも極めて高い多様性があることがわかり,従来の分類が見直されつつある。また,ミドリムシの進化の過程の研究(ミドリムシは,もともと葉緑体を持たない原生動物で,他の藻類を共生させるように進化した)などからも,現在,原生生物を藻類(植物)と原生動物に分類することは適当ではないという考えが主流となっている→ドメインに基づく分類など。

教材としての意義
 小・中・高校の教科書には,水中の微生物の観察は必ず取り上げられ,その取扱いの割合も大きい。これは水中の微生物が,生物教材として地域性にとらわれず,また水中という安定した外部環境の中で生息しているため,どこでも手軽に入手可能であるという理由による。更に,飼育や培養も実験室内で可能であり,大量に増殖させることもでき,季節にも左右されないなどの利点もある。種類によっては,卵やシスト(cyst:被嚢)の状態で保存することもでき,観察を行うときに孵化や休眠の打破ができる。もっとも,こうした指導者側の観点よりも,生徒にとって水中の微生物の観察は,顕微鏡を使用して未知の何かを覗いて見るという,一種の「覗き見」的な好奇心が高揚され,更にそこに繰り広げられる微生物たちのミクロコスモス(小宇宙)の世界の面白さを体験できるということが,最も大きな教材としての魅力であり意義と言えるかも知れない。何時間でも飽きずに観察するので,顕微鏡操作を修得させるには最適の教材であり,必ず1時間程度はしっかり時間をとって観察させると良い。

水中の微生物の採集と入手
 近くに適当な田や池などがなくても,わずかばかりの水が存在すれば,そこには水中の微生物が必ず生息している。ただし,水流が激しい場合や日当たりの悪いところには,数も種類も少ないことが多い。したがって,日当たりがよく,水際に草が生えた比較的浅い場所が良いということになる。都市部などでは蓋の無い下水溝の水を採取したり,土壌に水を加え数日放置すれば,シストを作り休眠していた微生物が増殖してくるので,それらを観察すると良い。理科室に水槽があれば,濾過フィルターの中の淀みを採取すれば,多くの微生物が見つかる。採集は駒込ピペットとサンプル瓶さえあればよい。また,どうしても採集できないときは,都道府県の教育センターや高校の生物研究部会などで飼育していることが多いので,分与してもらうと良い。それでも難しい場合は,真夏以外の時期であれば,教材会社から宅配で購入することも出来る。

観察方法
①田,池,下水溝,水槽の濾過フィルターなどから,水底や水草付近に付着したコケ状のものを管ビンなどに採取する。
②駒込ピペットやプランクトンネットなどを利用すると良い。
③採取したものをシャーレに移し,最初は双眼実体顕微鏡で20~40倍程度で検鏡する。
④次に,一つ穴スライドガラスでプレパラートを作成し,カバーガラスをかけて,100~300倍程度の高倍率で検鏡する。
⑤動きが早い生物の場合には,メチルセルロースなどを加え,運動を抑制すると,観察しやすくなる。
⑥マイクロメーターを利用して,微生物の大きさを測定したり,顕微鏡投影装置を用いて微生物の写真撮影行なう。


  • 繊毛虫
  
       ゾウリムシ(Paramecium caudatum

  
ブレファリスマ(Blepharisma Perty)
ゾウリムシ(Paramecium caudatum)の電子顕微鏡画像(×750)

 
ミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria

(1)ゾウリムシ Paramecium caudatum
 ゾウリムシは水中の微生物の代表とも言うべき原生動物で,教科書には必ず掲載されているが,実際に観察させる学校は意外に少ない。ゾウリムシは,大きさも200~300μm程度と大きく,体全体は繊毛に覆われ繊毛運動を行う。分裂によって増えるが,接合を行うこともあり,原始的な有性生殖をする。原形質流動や収縮胞の観察など,生命単位としての細胞の働きを調べるのに適しているが,動きが早く,顕微鏡の視野内に入れるのがなかなか難しいという問題点もある。このため,各種の文献でNiCl2溶液やメチルセルロ-スを用いて運動を抑制する方法が紹介されており,業者が運動抑制剤としても販売している。
①場所   直射日光を避ける。直射日光の当たらない場所であれば、どこで      もよい。暗所におけば緑藻類が繁殖しなくてよい。
②温度   25℃
③培養液  ゾウリムシの培養液はいろいろ考案されているが,見上,小林ら      の「イネのわらの煮汁」と「レタスジュース」は以下の通りであ      る。
④培養法  1~2カ月に1回くらい新しい培養液に移しかえる。

*イネのわらの煮汁
 イネのわらを4~5㎝の長さに切り,蒸留水に入れて,加熱滅菌する。わらが無ければイネ科植物の枯れたものでも代用できる。わらの量は、水1Lあたり10g程度とする。
*レタスジュース
小林らの方法では,レタスをすり潰して,その汁10~20mLに水1Lを加える。また,レタス100gを,水1Lの中に入れ20分ほど煮沸しても良い。
この他、次のような組成の培地をつくっても良い。
NaCl 10.0g,CaCl2 4.0g,MgCl2 3.5g,MgSO4 0.5g,KCl 0.2gを1Lの水に溶解し,その原液を100倍に薄めて使用する。
(見上一幸:新しい生物教材の研究,講談社,1980)
(小林徳夫・笹森秀夫ほか:生物教材ニュース,No.2,教材生物研究会,  1975)

(2)ブレファリスマ Blepharisma undulans
 ベニミズケムシとも言い,繊毛虫の一種であるが,とても大きく(500~600μm)肉眼でも確認できる。ピンク色をしているので「ピンクゾウリムシ」とでも呼べるようなゾウリムシである。教材店で容易に手に入る。また,ブレファリスマは,環境の悪化によってシスト(cyst:被嚢)をつくるので,生育件を変化させることによってシストの形成と脱シストを観察することもできる。山極は,ブレファリスマが教材生物として優れてい特徴として,次の4点を上げている。
①動きがゾウリムシよりおそいため観察しやすい
②美しい紅色を呈しているため親しみがもてること
③からだの大きさに変化もあるため見飽きることがないこと
④ゾウリムシと同じように飼育培養が簡単であること 
(山極隆:教材生物ニュース,No.18,教材生物研究会,1975)
①場所   直射日光を避ける。直射日光の当たらない場所であれば、どこで      もよい。暗所におけば緑藻類が繁殖しなくてよい。
②温度   25℃
③培養液  培養液は、ゾウリムシと同じイネのわらの煮汁の培養液で育成で      きる。また、チョークレイ氏液で飼育することもできる。チョー      クレイ氏液に生米粒1~2粒入れ、温かいところにおいておく。
④培養法 培養法は、ゾウリムシと全く同じ培養法で飼育できる。
チョークレイ(Chalkley)氏液
NaCl 10.0g,CaCl2 0.6g,KCl 0.4g
*上の原液を使用時に蒸留水で100倍に薄めて使用する。

(3)ミドリゾウリムシ Paramecium bursaria
 ミドリゾウリムシは,ゾウリムシと同様な場所,すなわち水田のイネ株の囲や溝などに生息している。細胞中に Chlorella クロレラを共生させているため緑色に見えるので,一見するとミドリムシのようであるが,大きさはミドリムシより大きく100μmくらいで,形も異なるので容易に区別できる。顕微鏡で観察するときは光源の光に集まり,ゾウリムシより動きがゆっくりしているので,観察しやい材料である。
①場所   ゾウリムシと違って、明るいところで飼育することができる。
②温度   25℃
③培養液  培養液は、ゾウリムシと同じイネのわらの煮汁の培養液で育成で      きる。
④培養法  培養法は、ゾウリムシと全く同じ培養法で飼育できる。


ツリガネムシ(Vorticella Linnaeus


  • 鞭毛虫
  
ミドリムシ(Euglena Ehrenberg)  ツノモ(Ceratium hirundinella

(3)ミドリムシ Euglena graciris
 ミドリムシは一本の鞭毛を持ち,体を回転させながら運動する。また,体には葉緑体をもち盛んに光合成を行っており,植物と動物の両方の性質を持ち合わせているのは,周知の通りである。大きさが30~40μmとやや小さめで,高倍率(600倍程度)でないと見にくいのが難点だが,観察では高密度で活発に活動する様子がみられる。赤い眼点や鞭もはっきりと認めることができる。しかし,動きがとても早いので意外に観察しにくい。ミドリムシは,細胞分裂により指数関数的に増殖するので,培養は容易い。また,光に集まる性質があるので,試験管に入れ,走光性の実験を行うことが可能である。
 培養液は、二相培地もしくはイネのわらの煮汁でよいが、岡田によると、次のような4種類の培養液で飼育が試みられている。
①化成肥料(8ー6ー6)1gを1Lの蒸留水に混ぜ入れ、その上澄み液を使う。
②ハイポネックス1gを1Lの蒸留水に混ぜ入れ、その上澄み液を使う。
③クノップ液を使用する。
④液肥(15ー6ー6)0.2mLを1Lの蒸留水に入れてかき混ぜたものを使う。この中で、使用が簡単で増殖度も早く、経費も少ないものとして、④の液肥を推奨している。
(岡田:生物教材ニュース,No.7,教材生物研究会,1976)
①場所     直射日光を避け、明るいところがよい。
②温度     20~25℃
③培養液   二相培地、またはハイポネックス(7-6-19)1gを
       1Lの煮沸した水に溶かして、そのまま使用する。
④培養法   三角フラスコや、腰高シャーレーなどで培養する。濃い緑
       色になったら、新しい培養液に移す。
二相倍地の作り方
 二相培地は,炭酸カルシウムや腐植土と蒸留水との二相が共存す る簡単な培地である。作り方は、汚染されていない水田土壌と小豆大の炭酸カルシウム をいれ,蒸留水を加えオートクレ ーブなどで滅菌する。 オートクレーブが無ければ,ガス バーナーなどで煮沸した土壌を用 いても良い。この培地は、ミドリムシ以外にも,ボルボックス,クンショウモ, ミカヅキモなどで利用できる。 こうして作製した二相培地に,2 ~3日放冷後,藻体を移植する。
 

(2)ツノモ(Ceratium hirundinella)
 ツノモ(ケラチウム)は,渦鞭毛藻網(Dinophyceae)であるが,ここでは渦鞭毛虫の仲間として取り扱う。単細胞で前に1本,後ろに2本の角がある。鞭毛は2本あるが細いので観察は難しい。


  • 緑藻植物
  
 ボルボックス(Volvox Ehrenberg
 フタヅノクンショウモ(Pediastrum duplex Meyen var.duplex

  
   コエラストルム            ホシガタモ

 
    ツヅミモ

  
   ミカヅキモ(Closterium Nitzsch ex Ralfs)

(1)ボルボックス Volvox aureus
 緑藻植物門・緑藻綱・ボルボックス目・ボルボックス科
 ボルボックスは色,形,動きなど美しく,教科書の口絵などにも良く取り入られているので,生徒の興味関心が大きい教材の一つといえる。ホールスラドガラスに入れて,顕微鏡で検鏡すると,クルクルと回転する様子が観察できて面白い。ボルボックスは500~600μm程で,水中を浮遊しているを,肉眼でその様子を観察する事もできる。走光性を調べる実験などに用いることもできる。しかし,ボルボックスは,水と温度管理に注意が必要で,特に夏場の高温は大敵である。室内であれば,できればクーラーのある部屋で管理したいが,難しい場合は,大学などの研究機関や各県の教育センターなどから,必要なときに分与してもらうのが良い。
 ボルボックス科には他に,Gonium pectorale( ゴニウム),Pandorina morum( パンリドナ),Eudorina elegans( ユードリナ),Pleodorina illinoiensis( プレオドリナ),Chlamydmonas cingulata(クラミドモナス)、Volvulina steinii(ボルブリナ)など種々な種類あるが,いずれも群体を形成し,群体内には娘細胞をたずさえるものが多い。ボルボックスの培養についての詳細は、遠藤の研究を参照のこと。
(遠藤純夫:生物観察実験ハンドブック,朝倉書店,1985)
①場所   直射日光を避け、明るいところがよい。
②温度   20~25℃
③培養液  二相培地がよい。
④培養法  最低1カ月に一回は、新しい倍地に移しかえる。培地が古くなる      と形態が悪くなり死滅する。特にボルボックスは、群体生物の中      でも環境の悪化に敏感なので、早めに植えかえをする必要がある。
(2)フタヅノクンショウモ Pediastrum duplex
 クンショウモはセネデスムス科の緑藻であるが,4~64個の細胞からな平板状の郡体ある。大きさは100μm位。突起の数や形により,種々な種類があるが,ヒトヅノクンショウモ,フタヅノクンショウモ,ビワクンショウモ,サメハダクンショモ等がよく知られている。クンショウモは、顕微鏡でみるととても美しく,星状形をしているので,大きく成長したクンショウモを見つけたときは,とても感動する。比較的,温度には弱いとされるので,夏の高温には注意を要する。
①場所   直射日光を避け,明るいところがよい。
②温度   20~25℃
③培養液  二相培地,または水田、畑、花壇の土を1~2㎝位入れ,水を加      えて滅菌する。放冷後藻体を移植する。
④培養法  1~2カ月に1回新しい培地に移す。

(3)ミカヅキモ Closterium ehrenbergii
 ミカヅキモは緑藻類の一種で,大きなものは肉眼で観察できる。長さは,500μm程度もあり,生徒実験が容易に行える条件の一つとしての個体の大きさをクリアーしている。
 生育場所は,川や池・水田などの石や泥の表面に多く,すべるようにゆっくりと動く。培養の方法は,上記のクンショウモと全く同じ。
①場所   直射日光を避け,明るいところがよい。
②温度   20~25℃
③培養液  水田、畑、花壇の土を1~2cm位入れ、水を加えて滅菌する。       放冷後藻体を移植する。
④培養法  1~2カ月に1回新しい培地に移す。


  • 珪藻
     ハリケイソウ             アウラコセイラ

 
   クチビルケイソウ



  • 節足動物(甲殻類)
 
      ミジンコ

(1)タマミジンコ Moina macrocopa
 ミジンコは、小学校以来の代表的な動物プランクトンで馴染みも深く、ミンコ科、ゾウミジンコ科、マルミジンコ科など種類も多い。全国どこの池やなどでも普通にみられ、飼育や増殖にも手間がかからない。体長は0.6~1㎜程度などで肉眼でも確認できる。ミジンコは雌による単為殖で増殖するが、環境が悪化すると雄が発生し、有性生殖により受精卵であ休眠卵を作る。
①飼育場所 直射日光を避け、南向きの明るいところがよい。
②温度    20~30℃位が適当である。温度が低くなると、冬卵を生む       。冬卵は乾燥保存する事が出来る。
③培養液   乾燥した水田土壌をバットの四隅にいれ、一度煮沸した水を入       れる。餌としてはドライイーストを1日おきに与える。このと       きドライイーストは、水によくとかして使用し、やりすぎると        水がすぐ濁るので注意する。
④培養法   適温と適当な餌があれば2、3日で増殖する。1、2週間おき       位に、新しい培養液にうつしかえる。個体数が多くなりすぎた       り、培養液が腐敗したりして環境が悪化すると死滅するが、場       合によっては、休眠卵を産むので水底に沈んだ休眠卵をスポイ       トなどで掬っておくと保存できる。
(2)オオミジンコ Daphai magna
 上記のミジンコに比べ、2倍以上の体長を持つ大型のミジンコである。肉眼でも十分に観察できるので、生徒でも水槽の隅にかたまっているオオミジンコをスポイトで容易に吸い取ることができる。時計皿に入れて、双眼実体顕微鏡で観察 してもよいし、またホールスライドガラスに入れて顕微鏡で低倍率で観察しもよい。大きくて、取り扱いも簡単なので、水中の微生物を観察させる手始に利用するとよい。また、心臓が拍動している様子や、時期によっては雌の内に受精卵を確認できる。 
①飼育場所 直射日光を避け、南向きの明るいところがよい。
②温度   20~30℃位が適当である。温度が低くなると、冬卵を生む。      冬卵は乾燥保存する事が出来る。
③培養液  ミジンコと同様の培養液で飼育できる。餌としてはドライイース      トを1日おきに与える。この他、緑藻類を定期的に混入してやる      とよい。
④培養法  すぐに増えるので、小さい容器では水の汚染が激しい。できれば      ビーカーなどではなくて、大きな水槽で飼育する。ミジンコ同様、個体数が多くなりすぎたり、培養液が腐敗したりして環境が悪化する。





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