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光学顕微鏡の使用方法
HEADLINE
生物顕微鏡(Biological microscope)
光学顕微鏡(Light microscope)には,解剖顕微鏡(Dissecting microscope),倒立顕微鏡(Inverted microscope),実体顕微鏡(Stereo microscope)などいくつかの種類があるが,一般的に理科の実験で使用するものは,生物顕微鏡(Biological microscope)であり,可視光を試料に当て,試料から出てくる光をレンズを使って拡大,視覚化する装置である。実際には,対物レンズ(Objective)で拡大した実像を再度接眼レンズ(Eyepiece)で拡大してできる虚像を見ている。光学顕微鏡は鏡筒が上下するものと,ステージが上下するものがある。顕微鏡の総合倍率は,「接眼レンズの倍率×対物レンズの倍率」で,接眼レンズが×10,対物レンズが×40ならば,顕微鏡の倍率は400倍である。写真撮影等を行う場合は,更に撮影装置の倍率をかける。対物レンズや接眼レンズは,本来はデシケータ(乾燥器)に保存しておきそこから取り出して取り付けるが,その際には対物レンズ上にゴミが落ちないように接眼レンズを先に取り付ける。
顕微鏡の原理
対物レンズは焦点距離(f1)が短い(2mm程度)レンズで,観察したい対象物を焦点の少しだけ外側に置くと,その拡大された実像を接眼レンズの焦点の少し内側に作る(接眼レンズの焦点距離(f2)は20mm程度)。次に,接眼レンズは,更にその実像をもとに大きな虚像を作る。つまり対象物は,最初に対物レンズにより拡大されることになるので,顕微鏡で対象物を拡大するには,対物レンズが最も重要な役割を果たすことになる。対物レンズが高価で,その取り扱いに細心の注意を払うのはそのためである。対物レンズの焦点と接眼レンズの焦点間の距離は,通常160〜250mmくらいで,顕微鏡は明視距離(眼を自然にして楽にものが見える一番近い距離,25cm位)に虚像を結ばせるように設計されている。
分解能(Resolving power)
近接した2点を,2点として見分けることができる最小の間隔を分解能(
Resolving power)という
。ヒトの肉眼では約0.1mmと言われ,光学顕微鏡では約0.2μmとされる。
分解能は以下の式で求められる。分解能α=λ/2NA
λ:使用する光の波長
NA(Numerical Aperture):対物レンズの開口数
この数値が小さければ小さいほど,顕微鏡としての性能が高い。分解能は光の波長と対物レンズの開口数のみで決定され,倍率とは無関係であり,大きな開口数を持つ対物レンズと,波長の短い光を用いて観察するほど解像力の優れた観察ができる。
開口数(NA)は,NA=n×sinθで表わされる。n:標本と対物レンズ先端の間の媒質が持つ屈折率で,空気はn=1,油浸の場合はn=1.151である。
一般に可視光は400~700nmなので,仮に緑色の550nmを例に取れば,開口数が1.40の油浸対物レンズを使用したとしても,α=λ/2・1.40で,α≒200nm=0.2μmと計算される。
顕微鏡の取扱い方
・顕微鏡は精密機器で高価なので,取り扱いには細心の注意を払うこと。
・移動や収納の際には,底部やアームを持ち慎重に扱うこと。
・レンズは絶対に直接手を触れたりしないこと。
・顕微鏡の各部位の名称は必ず覚えること。
学生実習用 ケニスFK-400LM-CN(左) WRAYMER EX-1000(右)
WRAYMER EX-1000は本学にはないが,コストパフォーマンスが極めて高く魅力的である(照明装置,メカニカルステージ付き)。同等品の半額以下であり,2倍の台数が揃えられる。多数の顕微鏡を購入予定の際には,一度検討をお薦めする。ただし,大阪の業者からの直接購入となる。
顕微鏡の各部の名称
接眼レンズ(×7,×15) 対物レンズ(×40,×10,×4)
高倍率の方が短い。 高倍率の方が長い。
生物顕微鏡の使用方法
@明るさを調整する。
最初,対物レンズは低倍率のものにしておく。反射鏡を調節して,視野全体が明るくなるようにする(照明装置付きの場合は,しぼり板で明るさを調節する)。
Aプレパラートを近づける。
プレパラートをステージに乗せ,プレパラートを対物レンズにできるだけ近づける。顕微鏡の横から見ながら,調整ねじを回して行う。
Bピントを合わせる。
接眼レンズをのぞき,調整ねじ(粗動ねじ)をAと反対に回しながら(プレパラートと対物レンズの距離を離しながら),ピント合わせをする。
*プレパラートと対物レンズの距離を近づけながらピントを合わせると,対物レンズがプレパラートと接触し,レンズを傷つけてしまう。
C観察の対象物を見る。
プレパラートを上下左右に動かし,観察の対象物を視野の中央にする(実験ではメカニカルステージ゙を使用)。
*像は上下左右が逆になるので,視野を動かす時は,右上のものを中央に移動したいときは,プレパラートを右上に動かす。つまり,像を動かしたい方向とは反対の方向にプレパラートを動かすことになる。ただし,小学生向けの顕微鏡,島津製SLK-400HBL,SS-400E等のように,屈折にプリズムではなくミラーを使用しているものでは,上下はそのままで左右のみが反転する機種が存在する。観察の対象物を視野の中央に合わせる方法は,よく試験の問題などで出題されるが,以前,千葉県の高校入試問題で,受験生がこうした機種を使用していた可能性もあるとの観点から,作問にクレームがつき,採点から削除されたことがある。「顕微鏡の視野=上下左右が逆」と,機械的に指導することには注意が必要と言える。
Dしぼりを変える。
しぼり板を調節して,対象物が一番見やすい明るさに調節する。視野が暗い時は,反射鏡(平面鏡)を凹面鏡にする。
E高倍率で観察する。
レボルバーを回転し,高倍率の対物レンズに変える。対物レンズを変えても,ピントはほぼ合っているので,微動ねじを回してピントを合わせる。高倍率では視野が暗くなるので,絞りを開く。
上位機種にはコンデンサー(集光器:Condenser)がついており,コントラストや焦点深度を調整できる。コンデンサーは,普通は一番上に上げて使用する。しぼりをしぼると暗くなるが,コントラストが上がり,像はハッキリと見えるようになる。通常は開口絞り環の数字を使用する対物レンズの表示に合わせ,正面に来るようにする。
焦点深度(Focal depth)
・・・どんなに小さいサンプル(試料)でも,サンプルには必ず奥行き(厚さ)がある。奥行きのある試料のある面に顕微鏡の焦点(ピント)を合わせたときに,同時にピントが合う奥行きの深さ(同時に明瞭に見ることができる上下方向(光軸方向)の距離)を焦点深度という。焦点深度が深い(値が大きい)ほど、試料内の厚い範囲を同時に見ることができる。
個々の対物レンズには開口数(NA:Numerical aperture)という数字が書かれているが,焦点深度は,このレンズの開口数と総合倍率に反比例する。実際の観察では,顕微鏡の倍率が低い時は焦点深度は深くなり,全体的にピントはあまりズレないが,顕微鏡の倍率が高くなれば,焦点深度は浅くなり,ピントを合わせた面から離れた場所ではピントのボケが生じ,鮮明な像は得られにくくなる。
焦点深度は,一般に次の式で与えられる。
焦点深度△=n・λ/2・(NA)
2
+n/M・(NA)・7
ここで,n:屈折率,λ:波長,M:総合倍率,NA:開口数
コンデンサー(上部)と照明装置(下部) コンデンサーの拡大
対物レンズA(×10) 開口数=0.25とある(左図)。
対物レンズB(×10) 開口数=0.25,0.17はカバーガラス厚(右図)。
プレパラート(Preparation)の作り方
@スライドガラスに観察したい試料をピンセットでのせる。
A水や染色液などを1〜2滴落とす。
B気泡が入らないように,カバーガラスの一端を柄付き針で支え,もう一方の端をピンセットではさみ静かに下ろす。
Cカバーガラスからはみ出た水や染色液をろ紙で吸い取る。
マイクロメーター(Micrometer)の使い方
顕微鏡で試料の大きさを測定するときには,マイクロメーターを使用する。マイクロメーターには,接眼マイクロメーター(Eyepiece micrometer)と対物マイクロメーター(Objective micrometer)がある。接眼マイクロメーターは円形のガラスで,接眼レンズの上部レンズを外して中に落とし込んで装着する。顕微鏡の接眼レンズのサイズ(直径)に合うものを使用する。1cmを100等分した目盛りが刻んである。
対物マイクロメーターは,スライドガラスの中央に,1mmを100等分した目盛りが刻んである。つまり,対物マイクロメーターの1目盛りは,10μm(0.01mm)である。 *1mm=1000μm(マイクロメートル)
試料の大きさを測定する前に,まず接眼マイクロメーターの1目盛りが示す長さを明らかにしておかなければならない。
接眼マイクロメーター 対物マイクロメーター
@顕微鏡をのぞき,両方のマイクロメーターの目盛りが平行で重なるようにし,目盛りの一致点を2か所探す。
A2点間で,それぞれのマイクロメーターの目盛りの数を読み取る。
B目盛り数を次の式に当てはめ,接眼マイクロメーターの1目盛りの長さを決定する。
接眼マイクロメーターの1目盛りが示す長さ
対物マイクロメーターの目盛りの数×10 μm
= ―――――――――――――――――――――――
接眼マイクロメーターの目盛りの数
C試料は,対物マイクロメーターのスライドガラスに載せるのではなく,プレパラートを作成し,接眼マイクロメーターの目盛りを基準に計測する。
双眼実体顕微鏡(Stereoscopic microscope)
中学校以上では,双眼実体顕微鏡も使用する。双眼実体顕微鏡は,プレパラートを作成せずに立体的な像を観察することができ,20〜40倍程度の観察に適している。ステージは黒と白があり,試料によって見やすい色を選択する。
双眼実体顕微鏡の使用方法
@左右の接眼レンズを調節する。
自分の眼の幅に合うように開閉し,左右の視野が重なるようにする。
Aピントを合わせる。
粗動ねじを回し,鏡筒を上下させてピントを合わせる。
B微動ねじを回してピントを合わせる。
C視野調節リングを回して,ピントを合わせる。
学生実習用 ケニスPX(40倍) ニコン ファーブルミニ(20倍)
ルーペ(Rupe)の使用方法
手軽に10〜20倍程度で観察したいときや野外では,ルーペを使う。ルーペは観察するものが動かせる時は,ルーペを眼に1p程度近づけて持ち,観察したいものを前後に動かしてピントを合わせる(図で左の生徒)。また,樹木の表皮を見るなど,観察するものが動かせないときは,眼にルーペを当てたまま自分が前後して焦点を合わせる(図で右の生徒)。上記のファーブルミニは,野外用の双眼実体顕微鏡で,首から紐でぶら下げて使うことができる。
スケッチの仕方
観察したものは,記録を残すという意味で,できる限りスケッチを行う。用紙はケント紙または上質紙で,A4用紙の半分くらいが良い。美術の絵とは違うので,次の点に注意してスケッチを行う。
@2Hと2Bの2種類の鉛筆を用いて,基本的に線と点で描く。
A最初に2Bの鉛筆でうすく輪郭を描き,その上を2Hで描く。
B陰影をつけたり,重ね書きなどはしない。試料名,観察日時,場所,倍率なども記しておく。
Cよく○を書いて,その中にスケッチする学生がいるが,視野全てを描く必要はないので,観察してスケッチしたいものだけを描けば良い。
*実験書などには,よく「左目で顕微鏡をのぞき,右目と右手で用紙にスケッチを描く」とあるが,初心者はあまりこだわらなくてよい。
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